『兄の終い』 村井理子
兄はダメな人だった。
でもどうしようもない人ではなかった、と思う。
筆者である妹さんも元奥さんも、
それぞれが別れを告げたくなるほどの男であることは間違いないけれど
でも心底憎んでいない。
もしくは2人とも、兄のアパートの大家さんが言った
「死んじゃったんならしょうがねーよな」
のひとことに尽きるのかも。
担任の先生に息子の相談をしていた話、
ダメダメな生活の中にも
なんとかしようと努力していた断片が見え隠れ、
残された履歴書にあった真面目すぎるほどの志望動機。
それらを見ているとなんだか妙に愛おしく思えてくる。
兄は生きていた。
そして、死んでしまった。
筆者がお兄さんのことを好きではなかったからこそ
書けたのであろう、文章の温度感がよかったです。